出会って間もない秋の終わりだった。気になっていた彼とのデート。街を歩いていると、ショーウィンドウにディスプレイされた革のバッグが目に飛び込んできた。「かわいいね」。わたしの呟きに「そうだね」とだけ返ってきた。
クリスマスイブの日。彼が意を決したように口を開いた。待っていた言葉。O.K.の返事をすると、彼は包装された箱を取り出した。「メリークリスマス」。あの日見た、革のバッグだった。


その彼が、今の旦那だ。デートの時はいつもこのバッグを持っていた。結婚して数年経った今でも大切に使っているけど、どうしても汚れやバッグの角にスレができる。「捨ててもいいんじゃない」と旦那は言う。その度にわたしは言ってやる。「だったらもう一つ」。心の中で「買ってくれてもこれは捨てないけど」と付け足して。
汚れも一つひとつがにじんだ思い出。と、美化しても、美品とはいえない。ある日旦那が実力行使に出た。「また買ってやるから」。わたしのバッグを捨てようと……!